「え……えっと……」

「小説ですか? 漫画ですか?」

「え? あの……確か」

「おとといですよ、もう忘れたんですか?!」

「いえ、ちょっと……」

「おかしいじゃないですか、そのくらいは覚えているはずだ」

「あの……ワンピースです」

パニックを起こす頭が、ようやく一つのコミックの題名を拾い上げた。

「なんだそれは、洋服か?」

真面目くさった川田が思わず言った大ボケに、悠美は吹き出して緊張から脱出してしまった。進藤は川田のやらかした失態にため息を洩らす。

「コミックの題名ですよ。人気のね」

笑いの止まらない悠美と進藤を見比べ、自分の失敗に気づいた川田は顔をしかめた。


それから緊張の解けた悠美の回答は饒舌なものとなった。なかなか隙を見せない。


川田は自分の失敗を苦い思いで噛み締めながら、悠美を帰すしかなかった。