そこで悠美は咄嗟に記憶を巡らす。あの夜、出てゆく時も帰って来るときも両親から声を掛けられることは無かったはずだ。

しかしもしかしたら気づいていたかも知れない。

そう考えると、目は宙をさまよい、心臓は音が漏れるほど激しく動悸を起こした。

「どこにも行ってません。学校から帰って……そのまま部屋にいました」

語尾が震えるのが悠美自身にも分かる。怯えが舌にも伝染したように思うように言葉が出てこない。

もちろん川田と進藤の二人がそれを見逃すはずはなかった。

「部屋で何をしていましたか?」

「何って……」

「何もしてないことはないでしょう。何かしてたでしょう」

尻尾を掴んだと確信している川田は、追及の手を緩めることはない。悠美の目をじっと見据え、逃がすまいとする意志をあらわにした。

「えっと……本を読んだり──」

「何と言う本ですか」

考える時間を与えない。即答を求めるように鋭く突っ込みをかける。