悠美は足を激しく振りまわした。

デニムが裂ける音とともに、脛に鋭い痛みが走る。

恐らく釘が足を削ったのだろう。しかし、その時足が自由になるのを感じた。

ようやく転がるように外へ飛び出すと、そのまま境内の出口を目指して駆け出した。

もう失くした人形を探すどころではない。

追いかけてくる何かから逃げることしか頭には無かった。



急な山道を駆け下る間に、もつれた足が何度か体を放り出した。しかし傷だらけになってもそれを気にする余裕などない。


ようやく山を降りて足が硬いアスファルトを蹴飛ばすようになると、息が切れた体は走ることを拒否して止まった。

血液不足でチカチカする目を恐る恐る背後に回す。

そこには先ほど登った山があるだけで、道には何者も確認することは出来なかった。苦しげな息を一瞬一瞬止めて耳を澄ませてもみたが何も聞こえない。

そうしてようやく悠美は棒のようになった足を、落ち着いて動かすことが出来るようになった。



(さっきのは……何だったんだろう?)



悠美はその恐怖を引きずりながら、更けた夜の道を家に向かって歩いていった。