あれから一年。この街は、何事もなかったようにまた夏を迎えていた。

結局あの事件は、地震の影響による地磁気の狂いだか電磁波だかが、人体に強く影響して幻覚を見せたのだということになっていた。


だが、この街の人間だけは、そんなこと露ほども思っていない。

実際に多数の人間が行方不明になり、誰一人として帰ってきたものはいないのだ。


それでも一年という時間は、その生なましい記憶を、すでに過去のものにしていた。道端では子供がはしゃぎまわり、商店街では中年女性が立ち話に華を咲かせている。


そんな街をすり抜けて家路をたどる悠美は、住宅街に入ったところでふと振り返った。


たったいま、すれ違った同じ年ほどの女の子に見覚えがあったのだ。

足を止めた悠美と同じように、その女の子も足を止めて振り返っていた。


(誰だっけ……)


極度の猫背で、うつむいた顔が判別をし辛くしている。記憶をたどる悠美をあざ笑うかのように、その女の子の口元がゆがんだ。


(あ──)


ようやく悠美の頭の中に、ひとつの名前が浮かんだ。


(林田幸恵……)