廊下に出ると、署員らが人員の確認をおこなっている。

他に誰かいなくなったかも知れないという恐怖が、署内に恐慌をきたしていた。

「馬鹿やろう、先に石田沙理奈を探さんか!」

これでは一階は相当な混乱だろう。

小金井はエレベーターに乗り込むと、一階のボタンを押した。


パトカーの中だけでなく、署内でまた行方不明者が出たなど、とても発表できるものではない。


その憂慮をしていると、扉が開いた。

待ち構えていたのは署員ではない、プレス室の残っていた記者たちだった。どの顔も極度に緊張している。

とても曖昧にかわせるようなものではない。


小金井は額に汗がじっとりと滲むのを感じた。



内田と宇野らのもとにも、署内からの連絡が入った。

その状況説明は、自分たちが体験したものと何ら変わるところがない。

「宇野」

報告を聞いて、内田の表情はさらにけわしくなった。とても自分の想像におさまる事件ではない、と確信したのだ。

「本当にこれだけの人員でどうにかなると思うか」

宇野はたしかに階級では自分よりはるかに下だ。

が、内田にとって宇野は、部下というよりライバルだと信じている。


それだけに、階級だけでも上に立ちたいという心が、内田をキャリア組の道を歩ませたのだ。


一番助けを求めたくないのが宇野であり、一方で最も頼りになるのもまた宇野だった。


その内田のプライドは、このとき消沈していたと言っても良い。