コオーン……
話にしか聞いたことのない、大昔の伝説。
その音が、実際にはこれほど恐ろしげなものだったとは、想像すらつかなかった。
全身の毛穴が開き、首もとから背中を冷えた空気が這ってゆく。
それよりも、店内までもが一瞬にして静まりかえっている。
今まで楽しげに会話を楽しんでいた人々が、全員凍りついたように動きをとめていた。
「私から離れるな。符を持っているとはいえ、油断はできない」
今まで煌々と光を放っていた店内のライトが徐々にかげってゆく。とっさに外に目をやった琢己は、いままで浮かんでいた月が、その姿を消していることに驚愕した。
「現世と霊界が重なるぞ。離れるな、私のそばにいれば完全な闇にはならない」
とたんに、今まで見えていなかった者どもが三人の眼前に現れた。
空調の吹き出し口、テーブルの影、カーテンの裾から、それらの者どもがずるりと這い出してくる。
真っ黒な、モヤのように見えたそれらは、徐々に形をなして、人の形へと変化していった。
その目の部分だけがぼんやりと光をともしている。
天井からぶら下がっているそれが、ぐるりと首を回して四人を睨んだ。
「いやあああ!」
悠美が最初にパニックを起こしてその場に座り込んだ。
連動するように、店内に狂ったような奇声があがる。それは、このファミリーレストランだけに限ったことではなかった。



