「昨日、会ったのか?」

「う……うん」

琢己は悠美の肩をつかんで迫った。


また木下裕子がひどい目に遭ったのかもしれない。


それでなくとも悠美は、自分に恨みを持っている人間の名前を聞かれて、まっさきに木下裕子の名前を挙げたのだ。

もし、この呪いを解くための方法を誰かに聞いたとすれば、悠美が最初に狙うのは木下裕子しか考えられない。

「それで、どうした。木下はどうなった?」

その質問をうけた悠美は、動揺の色を隠せなかった。

「悠美、なあ──」

「知らない」

「知らないって……」

「知らないって。本当に」

視線を床に落とした悠美は、そう言うと両手で顔をおおった。


ため息とともに続けた言葉には、自嘲がまじっている。

「逃げたんだもん、そこから」

「逃げたって……誰が?」

「あたしが逃げたの。ばらされたの、あたしが希里たちに呪いをかけたってことを」

なんでそんなことを裕子は知ることが出来たのか、という琢己の疑問は、つぎの話で納得ができた。

「あそこに落としてたの、うちの金づちをね」


そこまで話すと、悠美は肩をふるわせてうつむいた。


「つまり、あんたの連れは、呪ったあんたを許さなかったってことだな」

恭一は、相変わらず悠美への態度を硬化させたままだ。

「冷たいもんだな、あんたらの仲間ってのは」

悠美は何も言い返せない自分が悲しかった。