「この符を、鬼門に……ここだな」

呪文を唱えおえた佐々木は、符に気を吹き込むと立ち上がって壁にはった。

「これは魔を防ぐ符です。お嬢さんがここを出るまで、絶対はがさないようにしてください」

母親の表情は納得していない。

「すいませんが、そういうのは遠慮してるんです」

「そういうの……とは?」

「娘を助けてくださったことは感謝してます。その感謝のお礼はさせていただきますけど、そういう霊感商法みたいなものは迷惑なんですよ」

悠美はあわてて母親の手をひいた。

「お母さん、そんなんじゃないから」

それを聞いた恭一は、かっと頭に血をのぼらせた。

「お金目的と思ってるんですか?」

「だって、こんなもの……」

「なんで佐々木さんがこんなことしてるのか、なんで悠美さんが助かったのかわかります?」


佐々木は昨夜、この街に妖気が満ちてゆくのを感じて腰をあげた──



呪詛が空を覆い、地脈が力を失ってゆく。

見えるものが見れば、真っ黒な邪気が渦を巻いているのがわかるだろう。街のオーラと言い換えてもよい。

(これは……)

佐々木は自宅にいたが、庭に降りると、空を見上げてまなざしをひそめた。

(呪いが暴走をはじめたか)

携帯電話のメモリーをひとつ選ぶと、恭一と琢己を呼び寄せた。



夜の街にでた三人は、まず悠美を探すことをはじめた。

「最初に封印を解いたのは谷川さんだ。ふたたび封じるために、彼女から事情を聞きたい」

佐々木は呪詛をかけた人間の持つ独特な気をたどり、悠美をさがしている。

「助けてくれるんですよね?」

琢己は気の弱い声でいった。

「正直いえば、彼女はすぐに死ぬと思っていた。だが、事情が少し変わった。死んでもらっては困るな」

(普通に助けるって答えられないのかね)

とげのある言葉に少々うんざりしながら、琢己は佐々木のあとをついていった。