佐々木たちはまだ病室にいた。

いつまた霊障が悠美の身にふりかかるか分からない。駆けつけた家族は、うさん臭そうな佐々木を横目で見ていた。


病室が紫の煙に満ち、漢方薬をいぶしたような臭いが鼻をつく。

「それ、何ですか?」

床に置いた小さな香炉の前で、広げた紙に筆をむけて呪文を唱える佐々木に聞いた。

「馬鹿、いま気を入れてるとこだ。黙ってろ」

恭一はあわてて琢己の口をふさいだ。

「天圓地方・六令九章・令吾下筆・萬鬼伏蔵・急急如律令──」

まばたきひとつしない佐々木の手が動いた。


A4サイズほどの紙に筆が走る。と、そこには見慣れない文字のような、絵のような模様が素早く描きだされた。

(象形文字っていうのか?)

琢己は教科書に載っていた記憶を思い出していた。正確には古代中国文字というものだ。


それが組み合わさって、一枚の符ができあがった。


もちろん、退魔のための呪符だ。


悠美の母親は、それを見て眉をしかめたが、むげに佐々木らを追い出すわけにもいかない。

なぜなら、昨夜、悠美を川から救ったのは他ならぬここにいる三人だったからだ。