「おい、しっかりしろ!」

ようやくその声が耳に入ると、悠美は固くつむったまぶたを開いた。

またもや襲った暗闇と音。

それらは何もなかったように過ぎ去り、目の前には切迫した表情の川田の顔があった。


(死んでない)


自分の両手を見ると、安堵からか、力が抜けたように床にへたりこんでしまった。

「大丈夫か?」

心配そうに覗き込む川田の背後に、幾人もの警官が覗き込んでいる。


突然取り調べ室から発した絶叫を聞き、なにごとかと署内の警官が駆け込んできたのだった。


(そうだ、今度はだれが──)


とっさに首を回すと、のぞみと沙理奈が同じような顔でこちらを見ていた。

ここに犠牲者はいない。ということは


「真知子……」


その名前を口にした悠美は、あわてて携帯電話を開いた。

ついさっき、なかば川田から脅されるようにして、幾度か真知子のダイヤルをしていた。しかし、電源を切っているようで、呼び出しのコールが鳴ることはなかった。