「おい!おい!」



夫が慌てながら祥子の体を揺さぶる。

頭まですっぽり布団を被って汗だくになった祥子を見て夫が

「8時・・どうしたんだ?!」とひっくり返った声を出す。



寝ぼけてわけがわからずボーッとしていた祥子は枕元の時計を見て飛び上がった。

8時をまわっている。



「遅刻だな」



しっかりついた寝癖の頭をかきむしりながら、夫は諦めた様子でのそりと立ち上がって洗面所へ向かった。




祥子は冷蔵庫から紙パックのアイスコーヒーを出してグラスに注いだ。

夏場は楽でいい。



夫はコーヒーだけ飲んで身支度もそこそこに玄関のドアを飛び出して行った。





携帯電話を開いてみる。やっぱり真治からは来ていない。



携帯の着信音をONにした。

夫に怪しまれないように、寝ている間は音を消してあるのだ。




(夜中に見た夢はどんな夢だったんだろう)

ため息をつきながら覗いた鏡を見て驚いた。

明け方泣いたせいで目が腫れて、まるで試合の後のボクサーのようになっていた。



ただでさえ気分が晴れないのに、この顔で出社しないといけないかと思うと休みたくなった。

でもそんな呑気なことを言っている時間はない。

慌しく石鹸を泡立てて顔を洗った。