窓から一匹の蝶が

キラキラと輝く銀色の粉を撒きながら飛び込んできた



その黒い羽根はビロードのごとく濡れたように輝き、部屋の中をヒラヒラと舞った



薄暗い部屋の中で黒い蝶は、時々闇に紛れて見えなくってはふいに目の前に姿をあらわし

花に何度もとまりかけてはまた部屋の中で姿を消す





花は嬉しかった

蝶がやってくるのを待ちわびるようになった



その後毎日蝶はやってきては同じことをくりかえしたが

ある日、意を決したかのように花びらの上で羽根を休めた




花は蝶がとまった花びらの一部に

今まで味わったことのない心地よさをおぼえた




その後も毎日蝶はやってきて花びらの上で羽根を休めた

いけないことをしているような背徳感に震えながら、それでもやめることはしなかった




モノクロームの風景に色がついていく

花びらの色が日に日に鮮やかに変化してゆく




花は蝶に恋をした




花は半分開いたその窓を閉じてしまいたいと思った



蝶が再び窓から出て行かぬように

目の前から姿を消してしまわぬように




でもそんなことをできるはずもない



自由にひらひらと舞う蝶が

この部屋から出て行かぬように

祈り続けるしかないのだ




花が枯れ果ててしまうその日まで

芳しい香りを放たなくなるその日まで・・