銀鏡神話‐翡翠の羽根‐

鏡界のかなり下の番地に着いた。

四十九番地……

絶対立ち入り禁止区域だ。

爾来様に堅く言われてた。

入ってはいけないと。

私は、爾来様への忠誠心を其の時だけ必死に押し込んだ。

『いいの? 僕だって知ってる。

四十九番地は禁断の地だよ。

勝手に入ったら……』

鎖葉斗君は不安と不信が入り混じった様な目で私を見た。

『駄目だと思うけど、結構こっそり此処で寛いでる人もいるみたいだから……ね?』

私が投げた紫の短剣・波菜舞は、番地の区切り目に立ててある柱……

其の後ろに隠れていた人物に命中した。


バンッ


錬成してあったヴァイラが発動する。

『痛い……んですけど……万里。』

長い金髪の、綺麗な女性みたいな顔つきをした、細い長身の男が出て来た。

ヴァイラのせいか、服が砂煙で汚れてしまっている。

『キャルナスさん、何やってるのよ?

此処は四十九番地ですよ!?

絶対禁止区域ですよ!』

背負ってた鎖葉斗君そっちのけで、あたしはへらへらと笑うキャルナスさんに食ってかかった。

『いや、私は万里が此処にいる様な気がして来ただけですけど。』

そんな莫迦なと言いたいけれど、私は何とか其の言葉を飲み干した。

確かに昔から此の人の勘は妙に優れている。

『何か訳ありっぽく無いですか?

おぶさってる彼とか。』

にこっと笑い、彼は鎖葉斗君を指差した。

鎖葉斗君はビクッと身を震わし、ゆっくりとあたしの背から下りた。

『彼女は何も悪くない。

僕が脅して此処まで連れて来させた。』

『鎖の破片君!?』

鎖葉斗君は捻った足を引きずりながら、私の前に立った。

私の方に振り返ると、小声で、

『迷惑かけられない』

と呟く。

そんな私達の様子を見ていて呆れたのか、キャルナスさんは、

『……事情を話してくれれば、私、それなりに協力しても良いんですけどねぇ。』

と不機嫌そうに言った。