銀鏡神話‐翡翠の羽根‐

息詰まっていた空気が其の音によって、さらに重苦しい物に変えられたのを、当の本人は知っているのかな?

「ねえ…… 赤月……」

此の銀世界に新しく足を踏み入れて来たのは、焔の様な赤い、仄かな髪を長く伸ばした女だった。

世界から溺愛されている彼女は絶世の美女で。

思わず聖母の姿をよぎらせる様な、とっても煌々とした笑顔をする。

世界が言う女神とは、彼女みたいな人の事を言うのかもしれない。

「ばん……り……」

勿論、信じられないという顔をして、一気に力抜け、独楽は地面に座り込んだ。

其の衝撃か、彼の黒色のサングラスが白い床に落ちた。

「あたしが……

あたしが何時、貴方に復讐しろなんて頼んだの?

あたし……頼んでないよ……」

赤月は独楽を抱き締めると、今までの時間を埋め合わせる様に謝り続けた。

「ごめんね、ごめんね……

貴方に無駄な時間を送らせてしまって。

復讐何て、歪んだ考え方をさせて……」

独楽は白い結晶の瞳で赤月を覗き込んだ。

懐かしさか、嬉しさか。

愕きか、哀しさか。

僕はまだ今一人の感情を理解出来ない。

でも、彼の目に溢れている涙は、赤月への愛しさの物だと僕は信じたいな……

「万里…… お前……」

顔をくしゃくしゃにして独楽は笑った。

何時ものはったりめいた作り笑顔じゃない。

こんなにも人間は優しくて、綺麗に笑う物なのか、考えさせるくらい、素敵な笑顔だった。

「騙しててごめんね……

鎖葉斗くんも、みんなから責められて辛かった……?」

無言のまま、僕は首を振った。

まあ辛く無かったと言えば嘘になるけどね。

「何処、何処行ってたんだよ……

死んでねーじゃねーかよ……」

赤月をどうして殺したか。

答えられる訳が無い。

彼女は死んでないから。

「ごめんね、本当にごめんね……」

独楽は涙で潤んだ目を隠すためか、手探りしながらサングラスを取り、かけた。