銀鏡神話‐翡翠の羽根‐

「白露。」

扉が開き、独楽が入ってきた。

手招きされ、外の庭に出た。

肌寒く、少しの息遣いだけでも空気が白く霞む。

サクサクと足踏む土は鳴る。

霜柱がこんなにも沢山。

もう次の年になろうとしているくらいだ。

当然かな……

「……万里は何故死んだ?」

重々しい空気の中、独楽が予想していた通りの言葉を口にした。

「……答えられない。」

今答えてしまったら、赤月の今までの苦労が水の泡だ。

「何でだよ?

何で答えられないんだよ!?」

口調は強い物の、独楽の顔は今にも泣きそうなくらい必死で、辛さに今でもつぶされそうな顔だった。

「俺だって、本当はこんな事言いたくないんだよ……

お前が教えてくれれば良いんだよ……

何故、万里を殺したか……」

其の質問には僕は絶対、答えられない。

だって……

赤月は……

「答えられないのは、後ろめたい事が有るからじゃないのか?

やっぱり万里は、お前から爾来を護ろうとして、死んでったんじゃねーのかよ!?」

今度の独楽の顔は、本当に何かを決めた顔で……

目前の敵……僕を殺すと覚悟した顔で。

「違う……

違うよ……」

「じゃあお前じゃなかったら誰なんだ!?

万里を殺したのは誰なんだ!?」

独楽は腰に掛かっていた褐色の槍を僕に向ける。

槍に香る魔力の匂い。

やばい…… 魔器だ。

魔法をこんな近くで解放されたら少し困った事になる。

「魔器……だよね?

こんな短距離で解放したら……

君も死んじゃう……よ?」

僕の問い掛けに独楽はたじろがない。

表情一つ崩さず、槍を僕の心臓の近くに向けた。

「俺はお前さえ殺せれば死んだって構わない。

最後だ。

何故、万里を殺したんだ? 教えろよ?

俺は彼奴の仇をとらなきゃ……」

バチンッ


酷く心にのし掛かる音がした。