銀鏡神話‐翡翠の羽根‐

夢を見た。

暗闇の中に手足を縛られて、死んだ様に眠る長身の男。

茶髪で、今時のアイドルみたいな顔をしているけれど、チャラチャラしていない。

誠実さを感じられる。

最初はしみじみと彼の顔を見ていたが、僕はふと気付いた。

「僕……だ……」

自分だった。

容姿は違えど、僕には其の男が自分にしか見えなかった。

「僕? 君は僕なの!?」

暗闇に向かって突っ走った。

闇色の藪が道中を張り巡らす。

手で裂いて裂いて、突き進む。

僕が目を開いた。

茶色い細い目。

何か口パクで僕に伝えてきた。

僕は黒い階段を無我夢中で駆けた。

躓きそうになったけど、足に鞭をかけて走る。

やっと辿り着いた、白い布に身を包んだ男。

「起きてよ! 君は僕何だろ!?」

胸倉を掴んで呼び掛けた。

だるそうに彼は目を閉じた。

「起きてよ!

頼むから……

頼むから……」

やっと自分が誰なのか、解るかもしれない。

気付いた時には傭兵を生み出す為の実験施設。

自分が誰なのかを知らずに時を過ごした。

妹と名乗る少女は、惜しくも僕の過去を一部分しか埋めてくれなかった。

ただ、爾来という弟がいるという事だけしか。

リアノに救ってもらって、真っ先に弟の元へ行った。

鏡界へ。

万華鏡の門番を勢いだけで押し切って、爾来に逢った。

失望と絶望の連鎖だった。



『兄さんは記憶を無くしたんだね。

可哀想に。

僕が全部、貴方の力を盗っちゃったから。』



返す言葉を失った。

あまりにも予想と反した話に。

爾来が言うには、僕は昔、莫大な支配力を持っていたらしい。

優秀な支配人で、当時の支配下の信頼も厚く、鏡界の中央区の守護もしていた。

其の日、敵が攻めてきて指揮をとりつつも、僕は果敢に戦っていたらしい。