銀鏡神話‐翡翠の羽根‐

彼は鎌を投げ出すと、両肩を抱えて震え出した。

投げ出された鎌は粉々に砕け散った。

氷の破片が空中に舞った。

其の中でも一際大きな破片が宙に上がったと思いきや、鎖の破片に直下しようとする。

『危ないっ』

自然に動いた手足。

私の神経が蘇る。

脳内に瞬間的に描かれた軌道に乗り、鎖の破片の左腕を掴んでこっちに引き寄せた。

間一髪、破片は床に散った。

高度な技術で造られただろう、立派なクリスタルの床は幾つもの掠り傷によって、価値を失いつつある。

『ぁ……ぐ…… 教えて……

僕は何処から来たの……?

僕は…… 一体誰……?』

さっきまで光を感じ取れなかった彼の瞳は、頻りに揺れ動く。

知ってる、私は知ってる。

答えが寸前の処まで出ているのに、引っかかって出てこない。

だって、そんな莫迦な……

互いが閉口したまま、沈黙が続いた。

『万里!!』

界隈の端から聞きなれた声が聞えた。

まこだ。

どうしよう。

彼を差押えるのが私の仕事。

支配下の私の義務。

が、冷静さを失っていた私は、大変、愚かな行動に出てしまった。

皆は何と思っただろう、私をどんなに罵倒したかな?

どうでもいい事かな。

然程、私は後悔していないから。

やっと、貴方が誰だか知ることが出来たから。

悔やんでない。

死は人生の通過点。

更に越えていくだけ。

今なら自信を持ってそう言える気がするよ。