女優デビュー

私がそう言うと、学さんはフッと微笑んだ。

「いや、ディレクターは千夏ちゃんはそのままでいいと思ってるんだと思うよ」

「そのままで?」

そういえば石田さんにも同じようなこと言われたっけ。

「千夏ちゃんはヒロインを選ぶオーディションで優勝したんだろ?
ってことは、千夏ちゃんの存在そのものが、ヒロインにピッタリだってことで選ばれたんだ。
だから、演技なんてしなくても、そのままで十分『チナツ』なんだよ」

ああ、そういうことか。

でも……

「でも、それじゃあ、私の演技力はちっとも上達しないですよね?」

「まあ、そうだな」

「えー、それは嫌です。
もっと上手くなりたいのに」

すると、学さんは微笑んでこんなことを聞いてきた。