女優デビュー

「マネージャーさんにも聞いてみたんですけど、そのままでいいって言うだけで、教えてもらえなくて。
そうしたら、悟君がセリフ練習に付き合ってくれるって言ってくれたんですけど」

私がそうつぶやくと、学さんは頬杖をやめて、私に向き直った。

「石田さんは、そのままでいいって言ったの?」

「え、ええ……」

急に体を起こした学さんにちょっと戸惑いながら私は答えた。


そのとき、さっきの舞台会場での学さんと石田さんのやりとりを思い出した。

学さんも石田さんも様子がおかしかったっけ。


「あの、学さんと石田さんって何かあったんですか?」

私が思いきって聞いてみると、学さんはちょっとひるんだようだった。

「え、何かって?」

「なんか、さっき、学さん、石田さんに対して挑戦的な感じがしたから、過去にお二人の間に何かあったのかなって」

私がそう答えると、学さんは自嘲的に笑って顔を伏せた。

「そっか。
俺もまだまだだな」

「何があったんですか?」

私が更に追求すると、学さんは顔を上げてニッコリ微笑んだ。

「いや、たいしたことじゃない。
大人げないところを見せちゃったね。
気にしないで」

そう言われてしまうと、それ以上は突っ込んじゃいけないような気がして、私は黙るしかなかった。