女優デビュー

悟君の後について裏に回り、楽屋へ挨拶に伺った。

それまでよく知らなかった俳優さん。

たった1度の公演を見ただけだけど、私はすっかりその演技力に感服してしまった。


悟君がその方に事務所の後輩として私を紹介してくれたけれど、緊張してろくに挨拶もできなかった。


楽屋から狭い廊下に出ると、ほっと緊張が解けた。

ふと横を見ると、悟君がそんな私を見てくすくす笑っていた。

ハハ……

照れ笑いしか出てこない。


「石田さんが待ってる。
行こうか」

「はい」


悟君に言われて、ロビーへ向かおうと足を踏み出したら、隣の楽屋から出てきた人にぶつかりそうになってしまった。


「あっ、すみません」

とっさに頭を下げた。

「いや、こちらこそ……
あれ?」

相手の意外そうな声に、私は顔を上げた。