女優デビュー

「あー、もう、ほら、だから言ったろ、気を悪くするなって！」


沈み込んだ私に学さんは慌てた様子で言った。


「事務所がどう思おうが、そんなことは気にしなくていい。
千夏ちゃんはもう、自分の足で女優としての道を歩き始めてるんだから、自分を信じてその道を行けばいいんだ。
それに今日、ディレクターに褒められてたじゃないか。
君はもうお飾りなんかじゃない。
自信を持て！」


「はあ……」


そんなこと言われても。

自分自身が客観的に見えていなかった私には、自信なんてかけらもなかった。


すると、学さんは車を左に寄せて止めた。

そしてぼんやりしていた私の肩に手を置いて言った。


「そんな顔するなよ。
ごめん、嫌な思いさせて。
でも、最近、上手くなってきたよ、千夏ちゃん、本当に。
だから、『ティメンズ』を見返してやれ。
上手くなって君の評判が上がれば、事務所だって君を放ってはおけなくなる。
な？」


事務所を見返す？