――彼のメガネは理知的な瞳の本性を隠す。

これはまだあたしと慎が付き合う前の話。

正確には付き合うまでの話。



「じゃあ、これ教えてくれる?」

「ああ、いいよ」

「あ! 私にも教えてー」


どうして毎度毎度こうなるのよ。

高3年になったばかりの春。

放課後、慎の教室へ行くといつも同じ光景がそこにあるからいい加減嫌になる。



「わっ! 出来たー! 佐久間くんってやっぱりすごぉい!」

「基本さえ覚えれば簡単だよ」

「さすが学年トップだよねー!」


慎の周りには女子が何人も居る。

慎と同じクラスの女が慎の隣に座って、教科書をペラペラ捲りながらベタ褒めしてる。