婚約の前祝いをしようと提案したのは大学の友達だった。

正直オレは素直に喜べなくて、喜べない理由がいったい何か、ほんとはとっくに気づいていたんだ。



「前祝い? やろうよ。じゃあ、春希、今度ケーキ買いに行こ?」


彼女である朱里に話したらオレとは反対に喜んでいた。


朱里のその笑顔がオレの胸を痛めつける。

春希と呼ばれる度に、君が“春くん”ってオレを呼ぶ声が蘇るからだ。

彼女である朱里ではない君の声はいつでもそばにあったよね。



結局、朱里とケーキを買いに行ってくれないかと、千秋に頼んだ。


いつもなら絶対にそんな頼み事など聞いてくれない千秋だが、オレの変化を察したのか文句一つ言わずに承諾してくれた。