カノヤはその男をぼんやりと見た。

寝癖が付いた頭に、まるで今し方起きたとでも言いたそうな眠そうな表情で、擦り切れたジーンズによれて伸びたパーカーを着ていた。

片手には鈴カステラを持っている。


「ん?駄菓子屋初めてか?」

「え……?いや、あの……」


カノヤは正直戸惑いながら男を見る。

首を傾げながらこちらを見る男に、カノヤは躊躇いがちに言った。


「ぼ、僕……偽民だから、あまりお金が無くて…だから、こういうお菓子とか、買う機会が無かったから。
それに、人間は偽民って言うだけで差別して、冷たくするから、満足に買い物も出来なくて…」


喋りながらうなだれていくカノヤを、男は鈴カステラを頬張りながら見つめた。

そして、寝癖頭をくしゃりと掻き上げると、鈴カステラをカノヤに差し出した。


「俺は駄菓子屋松金の店主の松金常磐。近所のちびっ子にはとっちゃんって呼ばせてる。
ホントは“とっつぁん”が良かったんだけど、ホラ、小さい子って口回らないじゃん?

“つぁ”が言えないらしいから、まぁ、とっちゃんで」


常磐と名乗った男は、「あぁ、でもお前は“つぁ”が言えるよな。だったら“とっつぁん”て呼んでよ」と間の抜けたことを付け足した。