誰も何も言わないままホームルームの時間が始まり、担任が入ってくる。
黒いスーツを崩し、欠伸一つ、黒縁メガネ装着、寝癖が酷く、とにかく冴えない新人教師、28歳、木ノ下棗(キノシタ ナツメ)。
ちなみに♂である。
クラスメートからのあだ名はノッキー。
彼女はいるのかわからない。
「…はい、座れ座れ」
眠そうにもう一つ欠伸をして、ノッキーは出席手帳を取り出す。
クラスをぐるりと見渡してボールペンで何やら書き込み、パタンと閉じて、
「えーっと? もうすぐ…? 夏休みに入るっぽいですが……」
いつもの如く、ノッキーの「っぽい」癖にはみな呆れ顔。
入るっぽい、ではないだろう。
入る、だろうが。
「まあ、気を緩めずに……、はい、なら解散」
相変わらずの適当さ、教壇をよろめきながら降り、ふらつきながらドアを開け、目は開いているのか、出た瞬間どこやらの生徒にぶつかる。
「あ、ノッキーすまん!」
とその生徒に言われるが反応はナシ。
黒いスーツを崩しながら着ているノッキーはもう既に飛んでいるのかもしれない。


