残り50m…

杞憂に変わる瞬間。

透弥さんの躍進劇が始まった。

それは…、今までの走りが如何に余裕を見せたものだったのかを、思い知らされる嘘の様な猛進で。

差がみるみる縮まって行く。

その追撃に瞬きを忘れ魅了され、

美しい一匹の猛獣が獲物に狙いを定め翔び掛る幻影。

無駄な動きを一切感じさせない、洗練されたフォーム。

その姿に魅入られていたのは、
私だけではないはずだ。

圧倒的な存在感に、
心を奪う優美さ。

人を惹き付ける魅力を兼ね供えた
これが宮原透弥という人なのだ。

ホントは私が簡単に近寄れる様な人なんかじゃない。

宮原グループの御曹司とか、
身分違いってことじゃなくて、
取り巻く環境の違い。

選ばれた人とはこれ程までに風雅なものなのなのだという現実を、目の当たりにし突き落とされる。

ゴール前で遂に、

透弥さんが朋弥さんに並び、

息を飲み見守る中で、

僅かな差でテープを切った。

透弥さんの勢いに手放されたテープ

何も考えられなくて溢れ出す涙もそのまま透弥さんを唯見つめる。

私の元へ真っ直ぐ帰り、

「ただいま…晶」

その腕に引き寄せられ、

「本当に泣き虫なんだから…」

胸に閉じ籠められる。