ここは…、
中等部の昇降口?

あれは…、
今よりも幼さが残る透弥さんと、朋弥さんだ。

これは透弥さんの記憶の中なの?

「おい透弥どういうつもりだよ」

朋弥さんの怒声…。
今よりも重低音で怯んでしまう。

「嗚呼…そのままだけど?」

口調は今の物だけど、
淡々というよりも沈鬱な感じだ。

「俺が…どんな気持ちで抱いたと思ってんだよ?」

朋弥さんが透弥さんの首元を掴み壁に押し付ける。

その様子を固唾を飲んで見守る。

周りにはちらちらと野次馬の姿。

「だから無かったことにする。
婚約は元通りだから…」

抵抗する様子もなく透弥さんが、視線を落とす。

「…っざけんじゃねぇよ。
俺が抱いた意味分かってんのか?お前は何も分かってねぇ…
あの女はなぁ」

興奮して声を張り上げるけど…

「もういいじゃない…。
側近役外されることもなくなったんだから」

相変わらず定まらない視線。

「…そういうことかよ。
総代表と取引しやがったな?
俺じゃなくてお前が抱いたって」

透弥さんが朋弥さんを見た…?

見てるけど見てない。

「僕のことはもういいんだ。
放っといて欲しい…。
僕の側近役が嫌なら、
外れて構わないから」

透弥さんの目には
朋弥さんが映ってなかった。

「嗚呼そうかよ…だったらお望み通り外れてやるよ。
但し、お前に言われたまんまじゃ合わねぇ婚約はどんな手を使おうが破棄させてもらう」

朋弥さんが透弥さんを離す。

多分この頃の透弥さんの目には、何も映ってなかったんだ。

朋弥さんの悲しそうに揺れてた、瞳さえも…。