三ヵ月後、美雨は懐妊した。
 医師からは無事に生むことができる保障はできないと言われたが、美雨に後悔はなかった。
(この子は生んでみせる)
美雨は生涯で一番強く、穏やかな気持ちに包まれていた。そして、心は幸せに満ちていた。
 碧と一緒に美雨が喫茶店に戻ると、店はお祝いの準備がされていた。
「碧、美雨ちゃん、おめでとう」
管の言葉をかわきりに、集まっていた人たちがお祝いの言葉を浴びせた。
 二人は目を合わせると、照れくさそうに笑った。
 テーブルは地元の人が持ち寄った料理とお酒で満たされた。
「ご両人、さぁ、飲もう」
「こらっ、美雨ちゃんに勧めるんじゃないわよ」
「さぁ、温かいうちに料理をお食べ」
人々の温かさがヒシヒシと伝わってきた。
「こんなに幸せな日が来るとは思わなかった」
涙ぐむ碧に美雨も思わず涙ぐんだ。
「まだまだ、これからだろう」
管は碧の頭を軽く撫でた。
 お祝いは終始賑やかな雰囲気であった。
 終盤に差し掛かると、碧は美雨を席の中央へ呼んだ。
「なに?」
美雨が尋ねると、碧は一度目を逸らした。赤くなった頬は酒のせいか恥らっているのか、わからなかった。
「もう、なに?」
美雨は再度笑いながら尋ねた。
「君が幸せを形にしてくれたから、僕も形のある幸せを渡したいと思ったんだ」
碧はポケットから箱を取り出した。
「結婚しよう」
碧の笑顔は、はにかんでいた。
 美雨は心から幸せが溢れ出すのを感じた。
「いいの?」
「いいの」
碧は深くうなずいた。
「はい」
美雨はくしゃくしゃな笑顔で答えた。
 一瞬にして賑やかな雰囲気から穏やかな空気に変わった。
 碧は指輪を取り出すと、美雨の左手薬指に付けた。
 美雨は真っ直ぐ涙を流した。
「あらま。素敵」
「おい、写真を撮るぞ」
人々は碧と美雨を囲んで集まった。
 碧は美雨の涙を拭うと、抱き上げた。
 カシャっとシャッターの下りる音がすると、場は一斉に沸いた。
 フィルムには皆が幸せそうに笑う姿が映っていた。