あと少しだったのに…捕まっちゃった


声からして不機嫌なのがわかる

後ろに鬼がいるはずだ


これ以上無視したら何されるかわかんない。そう思ったあたしの口から出た言葉は


「…初美。『おい』じゃなくて秋山初美ってちゃんと名前があるんだから…『おい』じゃ誰を呼んでるかわかんないもん…」


子供みたいな言い訳
はぁー…何言ってんだろ
こんなこと言ったらまた笑われるよ



でも“彼”は笑わなかった
「…初美か…で、初美はどこに行くつもりだ?」



声に不機嫌さは感じない。寧ろ口調が柔らかくなった。
だから後ろを振り返り


「帰る」


って素直に答えたら睨まれた。



「なんで?」


なんで?って…
帰りたいから?



「笑ったことは悪かった。でも、お前顔に出すぎなんだよ。」

あたしが黙っているから怒ってるって思ったのか
申し訳なさそうに話す"彼"


「は?」

顔に出る?



「出るっていうより、書いてある。」


…ってことは、口から思ったことが出たわけじゃなくて顔に書いてあるから
あたしの思ったことがわかったってこと?



「初美…何やってんだ?」



「だって、あたしの思ってることが顔に書いてあるんでしょ?これならわかんないじゃん。」



あたしは両手で顔を覆いながら答えた。