最愛の人



“彼”は特に返事をしない。



声をかけてきた男は指示を待ってるかのように“彼”を見つめてたのに


いきなり体の向きを変えあたしに向き直った


な…何?
なんでこっち見るの?
“彼”は何も言ってないよ?


もしかして…目で指示したの?


この人達は目と目で会話が出来るのかも…



「遅くなってすみません。これをお使い下さい」


渡されたのは袋に一杯入った濡れタオル


いや…こんなにいらないんだけど、わざわざ持ってきてくれたんだもんね



「あ…ありがとうございます」


御礼を言って頭を下げた




「頭を下げないで下さい。悪いのは俺なんで…あとこれも持ってきました」



またまた袋に一杯入った湿布と包帯



思わず笑ってしまった


そんなあたしを見て困った顔をする目の前の男は“彼”に助けを求めるように視線を向けた



「おまえ持ってきすぎなんだよ。こんなにいらないだろ」



「すみません。足りないと困ると思いまして…」



確かに少なくて足りないよりは多いほうがいいけど限度があるよ

包帯なんて全部使ったらミイラになりそう…


想像してまた笑っちゃった。それと同時に男の顔が淋しそうな顔になっていく



「笑ってごめんなさい。こんなにたくさんありがとうごさいます」



男の顔に笑みが戻ると同時に遠くから足音が近づいて来る音がした