「あら、帰ってたんだね。おかえり。村はどうだった?」



玄関から洗濯物の籠を抱えながら入ってくるのは、母のマリーだ。



「特に何もなかったわ」



買ってきたものをテーブルに置いた。



ベルモンドのことは何も言わないでおこうと思い、ローズは口をつぐんだ。



「そういえばアンタ」



思い出したように、母がニヤリと笑った。



「フィデールに求婚されてんだって?」


「きゅ、求婚?!」



ガタンッ!!!



あまりの驚きに、ローズは勢い良く立ち上がり、座っていたイスを倒してしまった。




「ど、どこでそんな話を?」


「村の噂よ。昨日村に出かけた時に、小耳にはさんだのさ」



なんなの、それ?
どうしてそんなことに?



次々にクエスチョンマークが浮かび上がる。



まさか、そんなことになっているなんて思ってもいなかった。




「お母さん勘違いしないでね。あたしはあの人とは結婚するつもりはないわ」


「何を言いだすかと思ったら・・・」



マリーはやれやれと言った表情だ。



「母さんは無理強いするつもりはないよ。でもね、あんたが何不自由なく暮らしていける、それがあたしの望みだ」



わかったね?と顔をやさしく両手で挟み、ローズの顔をあげた。



「だけどお母さんは裕福な暮らしよりも愛を選んだでしょう?あたしだってきっとそうなるわ。・・・お母さんの娘ですもの」



ローズの母、マリーは親の反対を押し切り亡くなった父と結婚した。



元々はもっとお嬢さんらしい気品もあったのだが、父が事故で亡くなってからは女手一つで子供二人を育てなければならなかったため



いつの間にか肝っ玉母さんになってしまった。



だが、優しさと気さくな性格から村の人の評判は良かった。