扉から出る瞬間、娘は一度だけ振り返ると、見送っていた王子は薄く微笑んでいた。



“また今度…”


周りにいる人達の声で聞き取れなかったが、王子の唇がそう動いた気がした。


……執事と娘が大広間を出た後、姐御は王子に言った。



「良い子じゃないか…。惚れたかい?」


突然何を言い出すのかと、慌てた王子は否定する。



「はっ…?そ、そんな訳ないだろうがっ」



「はぁ〜ん?それにしちゃあ、
随分と入れ込んでたようだけどねぇ…」


あからさまに全否定する王子を、姐御はじろじろとにやけながら眺め回す。



「だから、そんなんじゃない!!
そんなんじゃ、ないんだ…俺はただ…」


いつもより声を荒げる王子に、姐御も目を丸くする。



「ただ…?」


いつになく焦った様子に、姐御もその続きの言葉を真剣に待つ。



「……ただ、何となく…」


一気に体の力が抜けた。



「はぁ〜、王子…」


真剣になっていた自分が馬鹿らしくなり、鼻で笑いたくなる。



「何となくは…何となくだっ」


しまいには開き直る王子に、本気で頭突きをしてみたくなった。