そこで、黙って聞いていた王子が口を開いた。



「……執事、数人の兵士にこの娘を
森の家まで送り届けるように命じてこい」


いきなり王子からの命令に執事は一瞬ポカンとする。



「……森が危険か安全かどうかは別として、
女一人の夜歩きは見過ごせないだろうが」



「あぁ、そういう事かっ!!」


察しの悪い執事に少々苛立つ。



「本当なら
俺が家まで送ってやりたいのだが…
生憎この舞踏会から
抜け出す訳にはいかなくてな。」


今日の主役は王子である為、舞踏会が終わるまで抜け出せない決まりなのだ。



「宮殿からしょっちゅう脱走するけどな…」



「言っておくが俺の耳は地獄耳だぞ、執事」


どうやら執事の呟きはしっかりと王子の耳に届いていたようだ。



「では…、後は頼んだぞ」



「分かったよ、王子」


王子の命令とあらば仕方ないので、執事は娘と一緒に出口に向かう。


……通り過ぎる途中、執事は誰かと肩が軽くぶつかった。



「っと、悪い…」


目立つライトグリーンの髪色をしているその男は一礼するとすぐに行ってしまい、執事も大して気には止めなかった。