「泣かないでくれ…。美人が台なしだぞ…」



「……馬鹿…」


いつもの王子の軽口に、娘はつい笑ってしまう。

 それでもまだ、目に涙を浮かべる娘に王子は言った。



「今みたいに
貴方が危ない目に遭えば、俺が盾になる…、
貴方がこれ以上悲しまないように、
俺が傍にいる…。

……だから、笑ってくれ…。」


娘にとって、これ以上ないくらいの言葉だった。

嬉しくて、また涙が頬から流れ落ちる。



「……約束…、してくれる…?」


娘はもう一度聞いた。

昔、こんな事を聞いたような気がする。



「『あぁ…約束だ…。』」


その笑顔が、ずっと忘れていた古い記憶の中にいる、幼い少年と重なった。



「…!!」


“約束”その言葉で思い出した。



(……あ…)


そう…遠い昔、あの湖の畔で約束を交わした少年が、記憶の中で蘇る。



(気がつかなかった…)


あの夕焼けが奇麗だった日、湖の畔で自分と大事な約束を交わした少年が今、目の前にいる事。