「…あれから日夏…部屋から全然出て来ないんだって」

葵ねぇはそう告げると、トマトを口に入れた。



あの日から1週間。


1度も日夏の姿かたちを見かけることがないままだった。



「あの一家がこの町出るなんてな。…何だか寂しくなるなー」

耕には声にならない溜め息を吐き出した。



…ガチャンッ。


今…なん…て…?


わたしは手に乗せていたご飯茶碗を、落としたことにも気にも留めず。

「耕にぃ…?今…何て言ったの?…日夏たち…どこ行くの!?」

耕にぃにそう問い詰めた声は、微かに震えた。


「…来週、日夏のお母さんの実家に引っ越すんだよ。
お父さんも転院させてあっちの病院で本格的にリハビリするって。
実家には後継ぎいなかったし。海に出れないならここにいても意味がないって。お父さんがこの町を出るって決意したらしい。
日夏も転校させるって…今日、日夏のお母さんが言いに来たんだ」

そう話す耕にぃの瞼は垂れ下がり、寂しそうだった。