あの暑い 夏の記憶


度重なる挨拶の果てに。

走り出したおじいちゃんの車に、みんなで手を振った。



そっと、左手を挙げただけの葵ねぇの薬指がキラッと光る。

それは細い銀色の指輪だった。

わたしにもわかるそれは。


結婚指輪…!



よくドラマで、結婚式で指輪の交換をするシーンがあるけれど。


それと一緒だった。



いつ耕にぃからもらったのか、やっぱり教えてくれなかったけれど。



次の日、耕にぃの左手の薬指にも同じものが光り輝いているのを見つけた。



そして、8月13日。


葵ねぇは。

里田 葵から、原西 葵に。


名前が変わった。



葵ねぇは、養女ってことにしてわたしにも苗字を変えようと、言って来たけれど。


わたしは断ったんだ。



葵ねぇが『幸せだった証』って変えないでいてくれた。


写真でしかわからないその“証”を、わたしはそのまま残しておきたかったから。



変える時は葵ねぇと同じで、わたしが幸せになった時だと思うんだ。