あの暑い 夏の記憶


家の横に置いてある自転車にまたがり、必死に漕ぎ農道の坂道を下る。


もう外は真っ暗になっていて街灯もない道は、星空と月明かりの輝きに照らされる。


キリギリスや鈴虫のけたたましい鳴き声だけがわたしの耳を響かせる。



どのくらいの時間、自転車を走らせ続けたのかわからない。


どこに行けばいいのかわからない。


どこに向かっているのかもわからない。



誰もいないのが当たり前の様に、静けさを帯びた小学校が目の前に来ていた。



ガタンッ…。

校庭に反響する窓が開けられた音。

1階の廊下の窓の鍵が、壊れていたのを覚えていたわたしは、すんなりと小学校内に引き寄せられた。


歩く靴音が、妙に一人ぼっちなのを強調させる。


わたしは教室の自分の席に座り、机の上に腕を被せ、その中に顔を沈ませた。



ここに来て、ようやく目から降りてきた涙。


手の甲に伝わる生暖かい滴は止まることを知らなかった。