「なんのつもり、ですか」
ヒラヒラと踊るように落ちていく紙。視線を上げれば、深い蒼に射ぬかれる。
「興味本位だ。お前の人生に口出しするつもりはねぇ」
棗さんは更に瞳を鋭く細めた。
「だが、忘れるなよ」
ギシリ、とベッドがきしむ。
「お前が“なに”であるかを」
散々言いきかせてきた筈の言葉を、いつのまにか忘れそうになっていた。自分の身体が、冷めていくのがわかる。
ベッドから立ち上がった俺は、地に落ちた紙を拾い、棗さんに差し出した。そのまま、ゆるく笑う。
「わかってますよ、ちゃんと」
それだけ言って、俺は地下室を出た。
カツンカツンと無機質な音を立てながら階段をのぼり、地上に出る。嫌いだった淡い橙が、ひどく眩しく感じた。