「俺は困ります」
ブー、と微かな電子音を発するくすんだ白の冷蔵庫は、20年近く前のものだと以前棗さんが言っていた。この旧式が今だに役目を果たしているのが奇跡である。
中を覗くと、案の定空っぽだった。思わず溜め息が出る。
「棗さんが死んだら生活費はどうなるんですか」
少し嫌味な笑みを浮かべてやる。
「ほんと、可愛くねぇ息子」
くせのある黒髪を掻き上げて一瞬だけこちらに視線を寄越した棗さんは、また直ぐにパソコンと向き直りそう言い捨てた。
冷蔵庫を閉めて、部屋の隅にある古びた金属ベッドに倒れ込む。ギシリ、とスクリンプラーが悲鳴を上げた。薄い敷布団のみが引かれたベッドはひどく寝心地が悪い。普段棗さんが仮眠用に使っているせいか、僅かだが棗さんが愛用している香水の匂いがする。暫く黙って呼吸のみを繰り返していると、小気味よいキーボードの音が途絶えた。
「翠、どうした?」
「……何がですか」
聞こえる棗さんの真剣な声に、少しだけゆっくりとした口調で答える。起き上がる気にはなれない。
「お前がベッドに倒れこむなんて」



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