この心臓が錆びるまで



 たんたんとした住宅街を歩く。どの家の窓からも淡い明かりが漏れていて、歩く夜道を照らす。煉瓦を踏む自分の足音がやけに大きく聞こえるのは、気のせいなんかではなかった。


「電話、番号……」


 渡されたお兄さんのであろう携帯の電話番号。

 これが意味するのは、お兄さんの俺への信頼と、薺の身体の危険性だ。あかの他人を頼るほど、薺の抱える心臓病が深刻だということ。

 それは、さっき公園で薺が発作を起こしたときに嫌というほど体感した。だが、こうして紙切れ一枚渡されただけで、その重みは一気に増す。


「薺……」


 幾分か涼しくなった風が頬を掠め、呟いた言葉を奪い去っていく。

 自分の住む家まではまだまだ遠い。

 俺は紙切れが制服の胸ポケットに入っていることを確認して、自転車に跨がった。ライトが直線上の先のみを照らし、なんの躊躇いもなくそこを通る。

 身体で風をきりながら、それはまるで自分自身の生きる道のようだ、と頭の片隅で考えた。