ガチャリ
「翠! せっかくだしご飯食べてかない!?」
いきなり開いた扉に二人して玄関の方を見れば、逆光で分かりづらいが満面の笑みを浮かべた薺がいた。
「お兄ちゃんのカレーは天下一品なんだよ!」
「二人じゃ余っちまうし、食ってくか?」
薺に続いて切れ長の瞳を更に細めて笑うお兄さんに、俺は丁寧に断った。――母親が帰りを待っているので。嘘だった。それでもこの言葉が一番効果的だと俺の頭が言っていたからそのまま口にした。
「…なら仕方ないな。薺、諦めろ」
薺は残念そうな顔をしたが、お兄さんはすぐに理解してくれたみたいで、薺を家へ押し込むと俺に振り返って言った。
「さっきの、俺がついてたのに~ってやつ。お前が頭下げることなんてねえよ。あいつが発作を起こしたのはたんなる俺の注意不足だ」
不思議と、お兄さんは俺のかたく護られた心に入り込んでくる。嫌な気はしない。
そっくりだな、兄弟なだけあって。
「ああ、それと」
思い出したように呟いたお兄さんは、ズボンのポケットから小さな紙切れとペンを取り出すとそこに何かを書いて、俺に渡した。
「薺になんかあったら、そこに掛けろ」
俺に握らせた紙切れを指でさして言い捨てると、バタンと玄関の扉が閉まった。
紙切れには、走り書きの携帯番号が記されていた。



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