この心臓が錆びるまで



 扉を開けてこちらを振り向いた彼女に、ニコリと笑いかけられる。


「送ってくれてありがとう。また明日ね」


 俺も軽く笑って手を上げたところで、パタンと室内の光が途切れた。それきり、周りの音は無くなる。

 淡い色の髪を手でくしゃりと崩したお兄さんは、小さく息を吐いた。


「悪かったな、モヤシとか言って」
「あ、…いえ」


 お兄さんの言葉に一瞬ほけってしまい、キュと自転車のハンドルを握り顔を引き締める。そんな俺に、お兄さんはネクタイを緩めながら瞳を細めて微笑した。


「感謝してる。ただ、あいつのことになると、ついカッとなっちまうんだ」


 そう言って困ったように笑うお兄さんは、薺と似ていた。見た目とかじゃなくて、直感的ななにか。ただ決定的に違うのは、多分、立場だ。


「俺がついていたのに、すみませんでした」


 俺は軽く頭を下げた。

 心配だったに違いない。側にいた俺があんなに怖かったんだ。薺の無事を祈り帰りを待っていたお兄さんが、怖くないわけがない。

 人間の彼が、怖くないわけが――…