この心臓が錆びるまで



 俺はいつ飛び掛かってくるかもわからないお兄さんに、出来る限り刺激を与えないように笑った。


「あの、俺はただ…」
「ち、違うの! 翠はただ送ってきてくれただけ!」


 俺の後ろからようやく顔を出した薺が助け船を出してくれた。が、お兄さんの眉間の皴はさらに増える。


「ほぉ、もう名前呼びするような仲なのか」


 薺は完全に墓穴を掘ったようだった。


「だ、だから違うんだってば!」


 さすがにイラっときたらしい薺は、声をあげて俺の前へ出ると、見下ろすお兄さんを睨み返した。


「はしゃいで発作を起こした私を、翠は助けてくれたの。だから私の命の恩人なの!」


 ぐい、と腕を引かれて薺と密着する。これってまずいんじゃ…、と一瞬焦ったが、薺の説得のおかげか、お兄さんは手でおでこあたりを押さえ溜め息をはいた。


「お前、また走ったのか?」
「う…ごめんなさい」


 途端に小さくなる薺。お兄さんは薺と同じ栗色の瞳をこちらへよこすと、腕組を解いて玄関の柵を開けた。

 キイイ、と柵が小さく悲鳴をあげる。


「薺、」
「あ、うん」


 お兄さんに呼ばれて、薺は俺の自転車から鞄を取ると玄関まで掛けていった。