この心臓が錆びるまで



「遅え!!」


 すっかり暗くなった静かな住宅街に響いた怒号に、薺は俺の後ろへ隠れた。


「やばい、マジ切れしてるっ」


 焦ったような薺の声に、俺は目の前の人物を見て溜め息を漏らした。

 今俺達がいるのは、薺の家の前。表札には越智の文字。そして目の前の玄関に立ちはだかるのは、腕を組んで仁王立ちする、薺のお兄さん。多分。

 多分、ってのは薺から聞いていた話しと違い過ぎるから。あってるのは髪の色だけだ。


「おい薺、今なら聞いてやるよ? イイワケ」
「ごめんなさい許してくださいぃ!」


 後ろで叫ぶ薺に、恐ろしい目で俺達を見下ろすお兄さんは吸っていた煙草を地面に落とし踏み付けた。

 あ、嫌な予感。


「そこのモヤシ」
「モヤ……、」
「薺になにしやがった」


 疑問形でないところあたり、俺は薺に手を出した。ということになってしまっているらしい。モヤシ呼ばわりもどうかと思うが、とりあえずは誤解を解かなければならない。薺のためにも、俺のためにも。