この心臓が錆びるまで



 握っていた薬を鞄の中へと戻した薺は、ちょうど膝くらいの高さのブランコの柵に腰掛けた。


「私、小さい頃から心臓が弱くてね、負担が大きい運動はしちゃだめだ、っていつもお医者さんに言われてたの」


 足元を見つめて話す薺は、優しい表情をしている。俺は、そんな薺を見て、なぜだか苦しくなった。


「でも、私は運動が大好きだったからお医者さんの言い付けを全然守らなかった。おかげで何度も死にかけたんだけど」


 さっきみたいにね。そう言って困ったようにくすくす笑う薺はまるでなんともないことのように話すけれど、先程とてつもない恐怖を味わった俺には到底笑うことなどできない話しで。自然と顔が歪む。


「翠が助けてくれたから、私は今笑ってられるんだよ?」


 だから、そんな顔しないで。そう少しトーンの落ちた声で言った薺は立ち上がって、また俺を抱きしめた。背中に回る手が、微かに震えてる。


「薺……」
「ごめん、重たいね。帰ろう」
「……うん」


 何を言ってあげるべきなのか、検討もつかない。顔を上げた薺はいつもみたいに笑ってて、背中に回ってる手だって、もう震えてない。

 少し遠くなった薺との距離を埋めるすべもなく、俺達は薺の家へと向かった。