この心臓が錆びるまで



「遅いよ、翠」


 俺が自転車を引きブランコまでやって来た時には、薺は既にブランコに腰掛け栗色の髪をなびかせながら弛く漕いでいた。


「走って良かったの?」
「へーき、これくらい」


 ニコリと笑う薺に安心して、俺も自転車を脇に止め隣のブランコへ腰かける。ゆらり、と奇妙な浮遊感に襲われ思わず鎖を握る手に力が入った。


「翠、ブランコ似合うね」
「何それ。褒めてんの?」
「さあ」


 揺れる薺の横顔を見やって、俺も地から足を離してみる。


「気持ちいいね、翠」
「そーか? なんか気持ち悪い」


 弾んだ声色の薺の隣で、俺はボソボソと一人ごちる。

 そういえば、俺はブランコに乗るのはじめてだったかもしれない。


「せーの!」


 弾んだ声色に顔を上げれば、目の前に天使が舞い降りる。それがブランコから飛び降りた薺だと俺の脳が理解するまで、少し時間がかかった。


「うまいでしょ?」


 振り返った薺はニイ、と歯を見せて笑いかける。その背中に、一瞬だけ真っ白な羽が見えた気がした。

 俺が瞬きを繰り返しただただ薺を見つめていると、薺は俺のブランコの後ろへ回り無理矢理乗り込んだ。