この心臓が錆びるまで



「……俺は汗かかないの」


 とっさに出た言葉は、救いようのないものだった。


「意味わかんない」


 すぐさま突っ込まれる。

 平然を装ってもこの出来すぎた心臓は煩い位に音を立てていて。薺に聞こえているんじゃないかと考えて、一層激しく音を立てる。


「ずっと不思議だったんだ」
「……何、が?」


 コツン、と薺の頭が背中に触れた。


「5月くらいの話しなんだけどね。自分の帰る時間に体育館を使ってるクラスがあって、裏庭から出れなくなったことがあるの」


 下り坂をスピードを落としながら下る。周りに注意を払いながらも、耳だけは聞きづらい薺の声に傾けていた。

 相変わらず、心臓はうるさいままだ。


「その時体育館でバスケをしてたクラスがね、翠のクラスだったの。翠のことは噂もあったから、すぐ分かったんだよ。凄い目立ってたしね」


 薺は笑ってるけど、俺は全く笑えない。


「でもさ。他の皆はすごい汗かいてるのに、翠は汗どころか息一つ乱れてなかった」