この心臓が錆びるまで



 帰る素振りすら見せない薺を退かそうと脇の下に手を入れたら、薺は強く首を振った。


「翠、イヤ」
「だめ」
「やだ」


 薺は引かない。


「どうして?」
「翠と居たいから」


 髪と同じ栗色の瞳に真っ直ぐ見つめられて言われたら、こっちの気も失せるというもので。俺は先程よりさらに大きな溜め息をつき、薺から手を離した。


「それ、ずるいだろ」
「言ったもん勝ち~」


 苦しい程に抱きしめられる。

 やられた、って思った。今のはどう聞いたって、家に帰りたくない薺の口実なのに。軽く自己嫌悪に浸ってみる。が、やはりここは引いていい場面ではない。

 俺は抱きつく薺を力づくで引き剥がした。


「送ってやるから、帰ろ?」


 俺と一緒に居たいと言う口実は、これでもう出来ない。そして薺の大好きな優しい笑顔で聞いてやれば、


「ちゃんと家まで来てくれる?」
「うん」
「じゃあ、いいよ」


 薺は簡単に頷いた。