「薺、時間過ぎた」
「……知ってる」
ベンチに腰掛ける俺の上で向かい合うように股がったまま、薺は掠れ声で頷いた。肩に乗る重みが無くなり、正面から見つめ合う形になる。
「戻らなくていいの?」
「今日、三崎先生休みだからさ。いっくらでも翠といれる」
薺はニイ、と悪戯に笑った。
薺は保健室登校をしていて、毎日昼前に学校へやってきて三時に家へ帰るといった毎日を送っている。
理由は知らないし、知ろうとも思わない。俺に秘密があるように、薺にも言いたくないことはあるだろうから。
「大丈夫なの?」
「何が? 家ならお兄ちゃん今日遅くなるって言ってたし、全然大丈夫だよ」
「家じゃなくて、薺がだよ」
真剣に言えば、薺は笑顔を無くし口を閉ざした。はあ、と思わず溜め息が漏れる。
「ほら、大丈夫じゃないじゃん」



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