薺とはじめて言葉を交わしてから、ちょうど一週間が経った。この一週間、俺は毎日薺のいる裏庭へと通っている。勿論、今日も例外ではなかった。

 体育館の奥の扉を開け、木々の生い茂る狭い道をくぐり抜け白い光の中へ足を踏み入れれば、そこは裏庭だ。眩しさに細めた目をゆっくりと開けば、そう広くない裏庭の中心に置かれた一脚のベンチには何時も通り薺がいた。


「──薺」


 俺の声にこちらを向いた薺は、嬉しそうに笑う。

 今日の薺は髪を2つに結っていた。ふわふわとした栗色の髪は、彼女のチャームポイントともいえるだろう。


「今日も来たんだ?」


 これは薺の口癖だ。俺が来る度に薺は必ずいう。その答えに「来ちゃダメだった?」と意地悪な質問を返せば、「ううん、嬉しい」といつも薺は笑うんだ。


「来ちゃダメだった?」
「ううん、嬉しい」


 ほら。

 昨日と同じように薺はふわりと優しい笑みをこぼして、座る位置を少しずらした。


「座れば?」
「言われなくても」